大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)92号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、同二(本願考案の要旨)、同三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

成立に争いのない甲第四号証及び甲第五号証によれば、原出願については、出願当初の明細書は補正され、その補正明細書が昭和五四年七月五日出願公告されたものであることが認められるところ、本件出願は右出願公告後である昭和五六年四月一六日原出願を実用新案法第八条第一項の規定に基づき実用新案登録出願に変更したものであるから、本件出願について右規定を適用する要件である出願内容の同一性、すなわち本願考案の要旨とする事項が原出願の明細書又は図面に記載されているという要件の存否については、原出願に係る出願公告明細書及び同図面に基づいて判断すべきである(もつとも、出願が適法に変更されたときは、変更された出願は原出願の出願の時にしたものとみなされることとの関連において、原出願当初明細書及び図面と出願公告明細書及び同図面の記載との間に実質的な差異がある場合に、前記要件の存否をいずれの明細書及び図面に基づいて判断すべきかについては検討すべき問題がないとはいえないが、本件においては、原出願の願書に添付した図面と出願公告図面とは同一であり、また、原出願当初明細書中の「逆転縁部10」に関する記載と出願公告明細書中の「周縁部10」に関する記載との間に実質的な差異はなく同一であることは当事者間に争いがないから、出願公告明細書及び同図面に基づいて判断すべきものとしても、格別問題は起こらない。)。

そして、前記判断は、特許出願である原出願を実用新案法第八条第一項の規定に基づき実用新案登録出願として変更し、出願の遡及効を認めることの当否に係るものであるから、変更出願の願書に添付された明細書及び同図面(本件についていえば、本願当初明細書及び同図面)に即してなされるべきであり、右明細書及び図面に記載されている事項が原出願に係る出願公告明細書及び同図面に記載されているときは、前記要件は満たされたものと判断すべきである。他方、変更出願の願書に添付された明細書及び同図面に記載されていない事項については、たとえその後変更出願の願書に添付された明細書及び同図面の補正の形式をかりて当該事項が実用新案登録請求の範囲に加えられても、前記要件の存否の判断に当たつては、当該事項が出願公告明細書及び同図面に記載されているかどうかは検討するまでもないものと解するのが相当である。

そこで、まず、本願当初明細書に記載された本願考案の構成要件イ「円弧面の頂部より開放端縁に繋げて徐々に肉薄に形成して」が出願公告明細書及び同図面に当業者において容易に理解できるものとして記載されているかについて検討する。

前掲甲第五号証(昭和五四年特許出願公告第一八一九二号公報)によれば、原出願に係る出願公告明細書には、原出願に係る発明は、「密栓効果が顕著にして、特に収納液体、例えば食用油の注出時におけるいわゆる油まわりを確実に防止し、かつ、開封が容易である等のすぐれた機能を具備するプラスチツク製の壜蓋の提供を目的とする」(発明の詳細な説明第二欄第五行ないし第九行)ものであつて、「粘稠液体を壜口より注出する場合の油まわり、または尻まわりは仲々抜本的には解決し得ない問題とされていた」(同欄第二八行ないし第三〇行)との知見に基づき、これを解決すべき問題点の一つとして、特許請求の範囲記載の構成、すなわち「周壁部1の内側下縁沿いに数条の隆条2aを形成し、頂面内側に周壁部1より長く筒状部3を垂設した蓋体Aと;裾部分を形成する側壁部5内周面に膨出部6を設け、前記側壁部5の上縁に設けた環状壁部7の外周縁には前記隆条2aと咬合する隆条2bを、またその下面には平行して囲繞せしめてなる数条の突条9をそれぞれ形成し、更に環状壁部7と有底筒状となした内装部4との間に介在する連続部8内装部4の側胴のほぼ中間部位において一体的に連設し、しかも内装部4の上縁部位に相当する開口周縁を外方へ開いた状態の断面逆U字状とせる周縁部10となし、かつ内装部4の外周面にひだ部11を囲繞せる下縁部分と側壁部5内側には、壜口Cに嵌合するに適した空隙を有する主体部Bとからなる壜蓋において;蓋体Aの筒状部3が内装部4の下縁部分を内方向から圧接するようなし、しかも内装部4の底部13裏面に掘設した多角形状の切取り溝12の隣接する二辺の部位に相当する表面に基端を連設して摘み14(「摘め14」は「摘み14」の誤記と認める。)を植立してなることを特徴とするプラスチツク製の壜蓋。」、特に「内装部4の上縁部位に相当する開口周縁には、外方へ開いた状態の注出用に好適な断面逆U字状の周縁部10を設け」(発明の詳細な説明第三欄第一三行ないし第一五行)る構成を採択し、この構成による作用効果として、「従来より油まわりないし尻まわりの発生は、壜蓋において不可避的な事柄としてその改善は断念されていたが、本発明は内装部4の開口周縁に断面逆U字状の周縁部10を形成して注出時におけるいわゆる油ぎれを良好ならしめるよう配慮した結果、在来の問題点を解消することに成功した」(第四欄第三九行ないし第五欄第一行)と記載されており、また、出願公告図面(別紙図面(五)参照)には、原出願に係る発明である壜蓋の実施例を示した第1図ないし第4図が記載されているが、その第2図(主体部の断面図)及び第3図(蓋体と主体部より形成される壜蓋を壜口に嵌合した状態における断面図)に「内装部4の上縁部位に相当する開口周縁を外方へ開いた状態の断面逆U字状とせる周縁部10」が図示されており、断面逆U字状の周縁部10の円弧面の頂部より開放端縁にかけての断面形状は明確には図示されていないが、周縁部10の下方部から頂部までの断面形状は下方部から頂部に達するに従つて徐々に肉薄に形成された断面に描かれており、当業者であれば周縁部10が注出口であることからみてその機能を果たすために、下方部から頂部に達するに従つて徐々に肉薄に形成されている断面に続いて、頂部より開放端縁にかけても連続的な曲線を描いた円滑な断面に形成されており、したがつて、前記第2図及び第3図に図示された周縁部10の円弧面の頂部より開放端縁に繋げての断面形状は徐々に肉薄に形成されていると認識し得ることが認められる。

以上の認定事実によれば、出願公告明細書には、原出願に係る発明の要旨とする「断面逆U字状とせる周縁部10」の断面形状についての直接的な記載は存しないが、発明の詳細な説明中に、外方へ開いた断面逆U字状の周縁部10は注出用に好適なものであることが記載されており、当業者において、この記載と前記発明の技術的課題(目的)、作用効果に関する記載を併せ検討するならば、注出用に好適なものということは油まわりをしない構成であることを意味することを理解することができ、この理解に立つて、周縁部10の円弧面の頂部より開放端縁に繋げての断面形状が徐々に肉薄に形成されているものと認識し得る出願公告図面の第2図及び第3図をみるならば、当業者は、出願公告明細書及び同図面から、原出願に係る発明は、粘稠液体を壜口より注出する場合の油まわりを防ぎ油ぎれを良好にするために、断面逆U字状の周縁部10の断面形状がその円弧面の頂部より開放端縁に繋げて徐々に肉薄に形成した構成のものであると理解することができるというべきである。

被告は、出願公告明細書及び同図面には、本願考案の構成要件イについて明記するところは見当たらず、出願公告明細書には、発明の詳細な説明中に「内装部4の上縁部分に相当する開口周縁には、外方へ開いた状態の注出用に好適な断面逆U字状の周縁部10」との記載があるのみで、それ以外の限定はされていないことからすると、出願公告図面の第2図及び第3図にそれぞれ左右二箇所に描かれている周縁部10はいずれも同一の形状ないし構造に描かれているべきであるのに、そのように描かれているものとは認められず、しかも、その先端部の形状は不明瞭であり、構成要件イを示すものとは認められない旨主張する。

しかしながら、出願公告明細書の発明の詳細な説明中の被告摘示の記載は、当業者においてこの記載と原出願に係る発明の技術的課題(目的)、作用効果についての記載と併せ検討するならば、前記のとおり理解し得るものである。また、出願公告図面の第2図及び第3図はいわゆる特許図面であつて、一般に特許図面は設計図面のように精密に描かれていないので、図面の寸法の大小を計測することによつて形状を特定することはできないが、これを願書に添付する場合、当該出願に係る発明の特徴とするところを表わすように図示すべきものである(特許法施行規則様式17〔備考〕4参照)から、当業者において当該図面からその発明の特徴とする形状を把握することをもともと予定しているものであり、このような観点に立てば、当業者が前記第2図及び第3図をみると、前述のとおり、周縁部10の円弧面の頂部より開放端縁に繋げての断面形状は徐々に肉薄に形成されているものと認識することができると認定することも許容されるというべきであるから、被告の右主張は理由がない。

また、被告は、本願考案について、出願公告明細書及び同図面に明瞭に記載されていなかつた事項でも記載されていたに等しいと認められるのは、同記載からみて当業者に自明なものに限られるべきところ、構成要件イが右記載から明白であつたとはいえない旨主張するが、当業者において、出願公告明細書及び同図面の記載からみて、前述のとおり、原出願の発明は断面逆U字状の周縁部10の断面形状がその円弧面の頂部より開放端縁に繋げて徐々に肉薄に形成した構成のものと理解することができる以上、本願考案の構成要件イは右記載から当業者に自明であつたというべきである。

以上のとおりであるから、本願考案の構成要件イは、出願公告明細書及び同図面に明示的に記載されていないが、右記載からみて当業者に自明であつて、実質的に記載されていたものというべきである。

次に、本願考案の構成要件ロ「開放端縁の周端部は成形極限まで肉薄に延生せしめ」についてみるに、原告は、右構成要件ロは出願公告明細書及び同図面に記載されていることは明らかであると主張し、他方、被告は、本願考案の構成要件ロは、本願当初明細書に本願考案の構成要件として明示されていないが、本願当初図面の第4図に記載されており、第三次補正及び第四次補正により右図面に記載された範囲内の事項として考案の構成要件の一つに加えられたものであるから、本件出願が変更出願の要件を満たしているというためには、本願考案の構成要件イのみならずロも出願公告明細書及び同図面に記載されていることを要し、そうでない限り、本件出願を原出願の変更出願とすることはできないところ、構成要件ロは出願公告明細書及び同図面に記載されていない旨主張する。

しかしながら、成立に争いのない甲第六号証によれば、本願当初明細書には、周縁部15の形状ないし構造については、発明の詳細な説明中に「この周縁部15の肉厚は第4図に示すように、その断面において円弧面14の頂部より周縁部15の開放端縁15aに繋げて徐々に肉薄になるように形成してあり、且つ該開放端縁15aは周縁部15の頂部より下方位に設定してある。」(第六頁第一〇行ないし第一五行)と記載され、右第4図(別紙図面(四)参照)については、図面の簡単な説明中に、「第4図は本考案注出口の一部断面拡大図」(第一一頁第八行、第九行)と記載されているのみで、これが成形極限まで肉薄に延生したものであるとの記載は全く存しないことが認められ、また、第4図をみても、周縁部15の円弧面14の頂部より開放端縁15aに繋げて肉厚を徐々に薄くなるように形成し、開放端縁15aは先薄に形成していることは認められるが、当業者がこの図面から開放端縁15aが成形極限まで肉薄に延生せしめたものであると理解するものとは到底認めることができない。したがつて、第三次補正及び第四次補正によつて構成要件の一つとして加えられた構成要件ロは本願当初図面に記載された範囲内の事項とはいえないから、構成要件ロが出願公告明細書及び同図面に記載されているかどうかは、本件出願が原出願の変更出願としての要件を満たしているといえるかどうかの判断にかかわりのないところであるというべきである。

そして、ほかに本願当初明細書及び同図面に記載された事項が原出願に係る出願公告明細書及び同図面に記載されていないことについての主張、立証は存しない。

そうであれば、本願当初明細書及び同図面に記載された事項は原出願に係る出願公告明細書及び同図面に記載されているというべきであるから、本件出願後の第三次補正書及び第四次補正書により本願当初明細書が補正された結果、本願考案の構成要件とされたロについて、これが出願公告明細書及び同図面に記載されているかどうかについて判断するまでもなく、本件出願は原出願の変更出願と認められ、その出願日は原出願の日である昭和四七年一二月二七日に遡及するというべきである。

したがつて、審決が本件出願について変更出願としての出願日の遡及効を認めず、「本願は、昭和五六年四月一六日の出願」であるとし、原出願後に頒布された刊行物であることが明らかな第一引用例記載の従来技術を本願考案と対比判断し、「本願考案は第一引用例と第二引用例に記載された事項に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたもの」としたのは誤りであるから、その余の審決の取消事由について判断するまでもなく、審決は違法として取消しを免れない。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は正当としてこれを認容することとする。

〔編註その一〕本願考案の要旨は左のとおりである。

周壁の開口縁部が外方へ行くに従つて漸次拡開・屈曲された断面半円形状の食用油等の液体容器の容器蓋における注出口において、前記開口縁部を、その断面における界面としての表面が略半円の円弧形状に、裏面が表面の曲率より小さい曲率で成る略半円の円弧形状に夫々なるよう形成すると共に、前記開口縁部の頂部より開放端縁に繋げて肉厚を徐々に薄くなるように成形し、開放端縁の周端部は成形極限まで肉薄に延生せしめ、且つ前記開放端縁は前記頂部よりも下方に位置させたことを特徴とする食用油等の液体容器の容器蓋における注出口

(別紙図面(一)参照)

〔編註その二〕本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面(一)

<省略>

<省略>

別紙図面(二)~(四)(省略)

別紙図面(五)

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!